研究概要 |
本研究の目的は信頼度の高い10^<20>eV領域の空気シャワーの高速シミュレーションコードを開発することである.この目的のため,60cpuのPCクラスタを構築し,並列計算を行うことで,前人未到の10^<19>eVまでの完全なモンテカルロ(MC)・シミュレーションを行うことに成功した.10^<17>eV以上の空気シャワーの様相は発達の度合いを示すパラメータ(age s)が同じ点でみると,同一と見なして問題ないことも確認した.ただし,粒子数の少なくなる中心から離れた地点では,できるだけ高いエネルギーの入射粒子の結果が必要である. 空気シャワーの高速シミュレーションには,完全なMCでのモデルシャワー中の粒子の各種の物理量の分布(粒子種別,エネルギー,距離,到来方向,到来遅延時間)などをパラメタライズし,高速に再現できるようにすることが必要である.しかしながら,信頼度の高いシミュレーションを行うには,各種の物理量の互いの依存性を考慮する必要がある。これにはf(x,y,z)dxdydzのような3次元分布あるいはさらに4次元分布まで導きだす必要があり,すべての物理量に対してこのような分布をパラメタライズすることは非常に困難である. そこで,別の方策として,巨大データベースをつくり,物理量をパラメタライズすることなく直接完全なMC計算の結果を利用する方針をとることとした.sの刻みを小さくとり,MCの結果をデータベース化すれば,任意のsについて非常に良い近似のシミレーション結果が得られるわけである.ただし,このモデルシャワーですべての粒子をデータベース化すると,1000テラバイトを遥かに越えるものになり,実用的でない.そのため,記録粒子はランダムに希薄化し,最大でも1テラバイト程度に抑える工夫が必要である.現在までに10^<18>,10^<19>eVでのモデルシャワーの作成をほぼ終わり,MySQLによるデータベース化と利用ルーチンの作成に向け作業を進めている。 上記の作業でこれまでのMCでは看過されてきた低エネルギー中性子がシャワー中心から1kmより以遠の地点ではミューオンより遥かに多くなることが判明した.つまり,数キロメートル遠方ではガンマ線,電子よりも数は多くなる.中性子がシンチレータ中で非弾性散乱を行った場合の信号が電子,ガンマ線,ミューオンと比べてどの程度になるかを見積もる必要がある。このため,大気中での中性子の伝播を含め,中性子の取り扱いに改良を行う. 上記のデータベースを専用に扱うマシーンとしてOpteronプロセッサを用いた1.6テラバイトのディスクアレーを持つマシーンを構築した.既存のクラスタと有機的に運用する準備を進めている. 笠原はフランス・ブロアの会議でTA実験とLHCの関連などの講演を行った.
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