前年度までの研究で、SPA-1 KOマウスが骨髄性白血病を含む多彩な骨髄幹細胞異常症を発症することを明らかにしてきた。今年度は新たに、SPA-1 KOマウスの新しい病態形質として、抗DNA抗体・抗核抗体の産生とそれによる典型的なループス腎炎の発症を確認した。これは異常な自己反応性B1細胞の出現とその抗原特異的免役応答によるもので、構成的Rap1シグナルによる転写共因子OcaBの過剰発現による免疫グロブリンL鎖の編集(レセプター・エディション)異常に起因することが示された。レセプター・エディションの異常による自己免疫病の発症は従来、自己抗体遺伝子トランスジェニック・モデルを用いて精力的に研究が進められてきたが、今回の結果により、通常の動物のシグナル遺伝子変異によるレセプター・エディションの異常が確かにヒトのループスに相当する自己免疫病態に至りうることが示された。さらに、一部のマウスでは、ヒトの慢性リンパ性白血病に酷似した自己抗体を伴うB1細胞性白血病の発症も認めた。これらの結果は、SPA-1遺伝子欠質によるRap1シグナルの異常に起因する骨髄幹細胞異常が、骨髄球系のみならずBリンパ系にもおよび、その病態発症にいたることを示すものである。これまでの研究によりSPA-1 KOマウスは、白血病、自己免疫病(B細胞性)、免疫不全(T細胞性)というすべての免疫・血液系の主要な病態を発症するきわめてユニークなモデルであることが示され、これによって個体レベルでの多様な免疫異常の病態発症における複雑な相互作用の解析が可能になったといえる。
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