研究概要 |
V-ATPaseは細胞内コンパートメントの酸性化,細胞外の酸性化に機能することが細胞レベルでの研究により明らかにされている.とりわけ,骨形成時の骨吸収過程では,破骨細胞の形質膜にV-ATPaseが局在化し,細胞外を酸性化することがわかっている.骨吸収の際の酸性化を担うV-ATPase a3イソフォームに対して詳細な解析を進めたところ,このイソフォームは破骨細胞特異的なものではないこと,さらには破骨細胞の前駆細胞を含め,ほとんどの細胞ではエンドソーム・リソソームに局在していることが明らかになった.破骨細胞への分化に伴って,a3イソフォームがどのような挙動をするのか観察した結果,リソソーム膜が微小管骨格を介して細胞形質膜へ融合することが見出された.これまでリソソームは最終のオルガネラと考えられていたが,多様な細胞特異的機能の発現過程において新たな表層膜の供給源となりうることを見出した.さらに,神経特異的なV1サブユニットとしてG2を見出した.V-ATPaseの多様性を解析していく過程で,マウスのGサブユニットには2つのイソフォームが存在することを見出した.組織レベルでの発現解析の結果,G1イソフォームは全身で発現する一方,G2イソフォームは脳・神経系でのみ発現することを明らかにした.各イソフォーム特異的抗体を作成し,マウス胚,神経細胞,海馬等の組織化学的観察の結果,G2イソフォームはプレシナプスに局在することを見出した.V-ATPaseによるシナプス小胞の酸性化は神経伝達物質の濃縮に関わっており,シナプス特異的な機能の発現にはG2イソフォームが関与していることを議論した.
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