分解オルガネラであるリソソームは、細胞内外の物質を消化する主要な場である。分解の対象となる物をリソソームに運び込むために、メンブレントラフィックによる輸送ネットワークが細胞内に張り巡らされている。ネットワークは細胞外から取り込まれた分子が辿るエンドソーム系経路と、細胞自身の構成成分が運ばれるオートファジー経路からなる。本研究は、リソソームを巡る輸送ネットワークの膜ダイナミクスの分子メカニズムと細胞や組織・個体における機能的意義の解明を目指すものである。本年度は、まずオートファジーが肝変性の原因となる異常たんぱく質の除去に働くことを報告した。α1アンチトリプシンは、肝細胞で合成され血中に分泌されるが、そのZ変異体(ATZ)はフォールディングの異常により分泌されず小胞体内に蓄積・凝集し細胞死をもたらす。我々は、オートファジーがATZの分解にユビキチンプロテアソームと同等の寄与をしていること、分解は凝集塊形成以前に起こっていることを示した。また、延長ポリグルタミン鎖を含むたんぱく質(polyQ)は、細胞質に蓄積・凝集し神経変性疾患を引き起こすが、その除去にもオートファジーが働いていた。疾患を起こす長さのグルタミン鎖を含む場合のみ、顕著にオートファジーが亢進し、何らかの認識機構の存在が示唆された。さらにオートファジーを担うオートファゴソームが微小管に沿って移動することを見いだした。エンドソーム系経路については、リソソームへの選別輸送のシグナルとなるユビキチン化と、選別後の脱ユビキチン化が、SKD1やCblなどの制御たんぱく質複合体のエンドソームにおける集合と離散のダイナミクスによりコントロールされていることを明らかにした。
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