研究概要 |
ほ乳類の生殖細胞形成過程で生じる卵子あるいは精子特異的なDNAのメチル化(インプリント)は,インプリント遺伝子の発現を制御し,受精後の正常な胚発生に重要な役割を果たしている。近年,卵子および精子特異的なインプリントは,ともにDnmt3aとよばれるDNAメチル基転移酵素やDNAメチル化活性は持たないもののDnmt3aと共同して働くと考えられているDnmt3Lによって触媒されることが示されてきたが,性特異的なインプリントが生じる機構についてはいまだに明らかにされてきていない。本研究ではインプリントの確立機構の解明を目的に,Dnmt3aが豊富に存在する成熟卵母細胞(fg卵子)にインプリントが全く確立していない非成長期卵母細胞(ng卵子)を融合させることで,ng卵子にどのようなインプリントが生じるのかを明らかにしようとした。その結果、再構築卵においては,Igf2r遺伝子が,fg卵子のような高メチル化ではないものの,成長期卵母細胞で確認されるような部分的なメチル化修飾(0〜97%;メチル化CpGサイト/解析CpGサイト)を受けていることが明らかとなった。また,本来,卵子ではメチル化されず、精子形成過程でのみメチル化されるH19遺伝子についてもIgf2rと同様のメチル化修飾を受けていることが明らかとなった(0〜100%)。以上のことから,Dnmt3aを豊富に持つfg卵子にng卵子が暴露されることで,Igf2rおよびH19遺伝子のDNAメチル化が誘導される可能性が示唆された。また、ng卵子には、精子形成過程でインプリントされるH19遺伝子のような遺伝子群のメチル化ブロック機構が欠如しているのではないかと考えられた。
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