C57BL/6マウスの遺伝的背景に、ある亜種マウスのY染色体が導入されたコンソミックマウスでは雌への性転換や卵精巣が形成される。この性転換マウスのXY卵子はXX卵子と遜色ない表現型を示すにもかかわらず妊性がない。そこで、精子に分化すべきXYの生殖細胞で卵子発生プログラムが機能しているか否かを検討するために、XY卵子の減数分裂および発生特性を明らかにした。その結果、多くのXX卵子では分裂装置の各極に一点に集中したγ-チューブリン局在が認められたのに対し、XY卵子では、複数のγ-チューブリン局在が観察された。また、XY卵子では、XX卵子同様に第一減数分裂が進行するのに対し、第二減数分裂では90%程度が異常を来し、多数の前核が形成され2細胞期へ進行する胚は10%未満と著しく低下した。これらのことから、XY卵子の第二減数分裂は胚発生に対して致命的な異常であり、これは中心体形成の異常に起因しているものと考えられた。一方、XY卵子の核をXX卵子の細胞質に第一減数分裂前後で核移植した結果、その時期にかかわらず、XY卵子のγ-チューブリン局在は正常に修復され、第二減数分裂を完了させることが示された。また、γ-チューブリン局在の異常は、XX卵子の核をXY卵子の細胞質に移植した場合にも観察されることから、XY卵細胞質に特異的な表現型であることが示された。XY卵子の核より再構築された卵は、受精後、産仔へと発生することから、XY卵子の核そのものには十分な個体発生支持能があり、Y染色体上の転写産物が卵細胞質の細胞骨格系に悪影響を及ぼしている可能性が示唆された。得られた仔の核型解析とZfy遺伝子の多型解析を行ったところ、性染色体の不分離によりトリソミーマウスが高頻度で誕生したが、母親(卵子)からY染色体を受け継いだマウスが誕生したことが示された。
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