研究課題
哺乳類に特異的なエピジェネティック制御であるゲノムインプリンティングは、正常な個体発生に必須である事が知られている。これはこの機構に制御される片親性発現インプリンティング遺伝子の中に、個体発生に必須の機能をもつものがあるためであると考えられる。昨年度は、母親性2倍体により初期胚致死の原因となるマウス染色体6番近位部のインフ。リンティング領域において、父親性発現インプリンティング遺伝子Peg10がその責任遺伝子として機能している事を報告した(Ono et al., Nat Genet 2006)。さらに、父親性・母親性2倍体が胎児期後期致死や新生児致死の原因となる染色体12番遠位部の原因遺伝子候補としてPeg11/Rt11の機能解析を進めてきたが、この欠失が母親性2倍体症候群の原因遺伝子であることも明らかにする事ができた。今年度は,これに加えてPeg11/Rt11の過剰発現が父親性2倍体症候群の原因遺伝子であることを確認できた。さらにこれと相同領域にあるヒト染色体14番の父親性・母親性2倍体(p/mUPD14)でも,マウスと同様な表現型が見られる事から、ヒトPEG11/RTL1がヒトの遺伝疾患にも関係していたことも明らかにする事が出来た。この結果は、胎児期後期の個体発生に必須の機能を果たすインプリンティング遺伝子の主たるものはPeg11/Rt11であることを意味している(Sekita et al., 投稿中)。このPeg10およびPeg11/Rt11は,われわれが先に提出したゲノムインプリンティングの生物学的意義に関する「コンプリメンテーション仮説」を強く支持している。体細胞クローンマウスでは、一見正常に見えるマウスにおいても、諸臓器において遺伝子発現異常が頻発している事を昨年度報告した(Kohda et al., Biol. Reprod. 2005)。この結果から、体細胞クローンの低作出効率の原因は、初期化不全による遺伝子発現異常である可能性が高まった。そこで着床直後における体細胞クローン胎児の体系的な形態観察と遺伝子発現解析をおこなった。予想通り、9割の胚において胎盤と胎児にそれぞれ致命的と考えられる形態異常が検出された。しかし、予想に反して、大部分の体細胞クローン胚は胎盤の低形成を示し、出生するクローン新生児に付随する過剰胎盤とは逆の傾向が見られた(Wakisaka et al., BBRC 2006)。これは体細胞クローン作出操作の際に、偶然、上手く初期化されたものだけが出生に至るという考えを支持する結果である。体細胞クローン技術は再生医療等の鍵を握る技術であるが、これらエピジェネティック制御異常を減らすための技術改良の必要性が明らかとなった。一方で、これらの異常な記憶が生殖制帽系列を経る事で正常化されると考えられており、それを実証するための解析を続けている。
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PLoS Genetics (in press)