研究概要 |
本研究は、卵子におけるゲノム再プログラム化機構を人為的に利用する体細胞核移植クローン技術と自然状態における受精(顕微授精)を比較し、あらたな世代を作り出す再プログラム化機構の解明をめざすものである。今年度は、体細胞核移植クローンで最も異常が生じる胎盤の異常解析および新規細胞種によるクローン作出を試みた。 1.体細胞核移植クローン胎盤の解析:胎齢9.5日においてクローン胚着床部位のほぼすべてが胎盤外円錐(EPC)部を欠損していた。そこで核移植胚盤胞から,EPCの前駆細胞である栄養膜幹細胞の樹立を試みたところ、44%(12/27)の効率で樹立に成功した。また、クローン胚盤胞へES細胞を注入したところ、胎盤の形態が改善した。よってクローン胚においては,内部細胞塊からの未分化栄養膜細胞維持あるいは増殖刺激の低下が生じている可能性が示唆された。 2.新規細胞種によるクローン作出:雄(B6x129)F1系統より分離あるいは樹立した神経幹細胞、間葉系幹細胞、helper T細胞、NKT細胞を用いて、核移植クローンを行った。その結果、神経幹細胞およびNKT細胞は再構築胚の半数以上が胚移植可能な4-cell以降へ発生し、胚移植後に健康な産子を得ることができた。特にNKT細胞は、70%がmorula/blastocystへ発生し、ES細胞も容易に樹立することができた。NKT細胞は、他のリンパ球同様にDNAの再構成が終了しており、これまでのリンパ球クローンの報告から、効率が悪いことが予想されていた。昨年度発表したように、その幹細胞である造血幹細胞は逆に効率が悪く、細胞の分化度とクローンの効率には相関関係がないことが示された。
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