本研究は、卵子におけるゲノム再プログラム化機構を人為的に利用する体細胞核移植クローン技術と自然状態における受精(顕微授精)を比較し、あらたな世代を作り出す再プログラム化機構の解明をめざすものである。昨年度までに、体細胞核移植クローンで最も異常が生じる胎盤の異常解析および新規細胞種によるクローン作出を試みた。そこで今年度は、これらの成果を元にして、各種クローン胚における遺伝子発現の詳細な解析を進めた。特に、クローンの効率が悪いことが明らかにされている造血幹細胞クローンについてその原因の究明に努めた。 1.卵丘細胞クローン(CC)胚および造血幹細胞(HSC)クローン胚とも、肺特異的遺伝子発現の開始は1細胞期後期に開始しており、いわゆるzygotic clockは正常に働いていた。 2.CCおよびHSCとも、ドナー細胞特異的な遺伝子発現は核移植後に、正常に停止していた。 3.しかし2細胞期における6つの胚特異的遺伝子のうち、CCで4つ、HSCで5つが発現量が低下していた。特にHSCにおいては、2-cell以降の遺伝子発現の制御に重要なHdac1 (histone deacetylase-1)の発現が低く、これが後の発生低下の原因になっていることがわかった。また、実際にH3K9とH4K8の高アセチル化を確認した。 以上のように、特異的な低発生クローンドナーの原因を初めて明らかにした。低Hdac1発現は、造血幹細胞のstemness維持に重要であると言われている。組織特異的幹細胞は一定の方向へ分化するように運命づけられており、この性質は卵子内の核移植では再プログラム化されないと考えられる。
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