クローン動物の作出が難しいのは初期化が不十分であるためと考えられており、初期化促進方法の検討が主に行われている。しかし我々は、それ以前の可能性を検討した。すなわちドナー核自身の異常および核移植によるダメージである。そこで核移植直後の卵子内ドナー核を染色しコンフォーカル顕微鏡で紡錘体や中心体タンパク質などを詳細に観察した。その結果、一見区別の出来ない正常な体細胞であっても、核移植後に紡錘体を形成する際、いくつかのパターンに分かれることが明らかとなった。さらに核移植に使用するピペットのサイズによって核にダメージが生じていることを初めて明らかにした。また未処理卵子へ核移植してから卵子の核を除いても成功率は改善されなかったことから、マウスでは初期化因子は、卵子の除核の際に一緒には除去されないことが明らかとなった。 一方体細胞から核移植によってクローン胚を作り、そこからES細胞(ntES細胞)を作出することは可能になっているが、その詳細は調べられていない。今回我々は、クローンマウスを作ることが出来ない系統からntES細胞の作出を試みた。その結果、どんなマウスの系統であっても、ntES細胞の樹立成績は20-30%の範囲であり、クローンマウスの作出より容易であった。さらに我々は、生殖細胞を完全に無くしたミュータントマウスの尻尾からもntES細胞の樹立に成功し、キメラマウスを作出後、自然交配させ、そのミュータントマウスの子孫を作ることにも成功した。このことは生殖細胞へ分化能を持たないミュータントマウスの体細胞であっても、ntES細胞は作出でき、そのうえ生殖細胞への分化もキメラマウスの精巣内で起こさせることが出来ることを意味している。
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