研究概要 |
DNAメチル化機構は、遺伝子発現調節能を細胞分裂を超えて次の細胞世代に伝達しうるエピジェネティクス機構である。哺乳類ゲノムのDNAメチル化プロファイルは、全能性・多能性を獲得する生殖細胞分化および初期胚発生において大きく変化する。これまでDNAメチル化酵素DNMT1ノックアウトマウスが胎生致死であることから、初期胚におけるDNAメチル化プロファイル形成が正常な胚発生・細胞分化に必須であると考えられてきた。一方、生化学的解析からDNMT1分子が酵素活性非依存的転写抑制能をもつことが示され、蛋白質分子構造が完全に破壊される従来のDNMT1ノックアウトマウスの表現型は、DNMT1の酵素機能と非酵素機能の双方を反映している可能性が指摘されていた。この問題を解決するため、我々は酵素活性を特異的に消失する点突然アミノ酸変異(Cys1229Ser)を導入した新しいDNMT1変異マウスDnmt1^<ps>を作製し、従来のDNMT1ノックアウトマウスDnmt1^cの表現型と比較をおこなった。その結果、我々は(1)DNMT1の酵素活性消失がDNMT1ノックアウトマウスの胎生致死表現型の主因であること、(2)DNMT1細胞核複製部位局在がゲノムDNAメチル化状態に依存的であることを明らかにした。今回の結果は、複製の結果生じるヘミメチル化標識がDNMT1複製部位局在の主要なシグナルであるというモデルを支持した(Takebayashi, et. al. 2007)。さらに共同研究を通して、DNAメチル化結合分子Np95/Uhrf1が、DNMT1のDNAメチル化依存的複製部位局在を介してDNAメチル化継承機構に必須の役割を果たすことを明らかにした(Sharif, et. al. 2007)。以上の結果により、哺乳類胚発生におけるDNAメチル化修飾の意義を明確にし、DNAメチル化継承機構の理解を深めることができた。
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