褐色脂肪細胞は、ミトコンドリアの脱共役蛋白質UCP1によって脂肪酸を酸化分解し熱に変換する活性を有しており、白色脂肪細胞とは逆に、エネルギー消費に寄与する特殊な細胞である。我々はこれまで、寒冷暴露やβアドレナリン受容体刺激など、交感神経系を活性化すると白色脂肪組織中の脂肪細胞が褐色化することを見出した。又、前年の研究で、p53ノックアウトマウスから前駆脂肪細胞を分離し、不死化させて褐色細胞株(HB2)と白色脂肪細胞株(HW)として樹立する事に成功した。これらを踏まえて、本年度は以下の研究成果を得た。 1)アドレナリン受容体作動薬(CL)を2週間投与したマウスの白色脂肪組織から、コラゲナーゼ処理によって脂肪細胞を分離した。この細胞はUCP1を多量に発現しており、CLで刺激すると褐色脂肪細胞と同様に酸素消費が急激に増加した。作動薬を投与しなかった対照マウスの脂肪細胞や、UCP1ノックアウトマウスから分離した脂肪細胞では、酸素消費の応答はほとんど見られなかった。酸素消費はUCP1量と良く相関していたので、交感神経性の酸素消費(エネルギー消費)は大部分がUCP1に起因すると結論した。 2)分化HB2はそれ単独でUCP1を発現していたがノルアドレナリンで刺激すると大幅に増加した。一方、分化HWではUCP1mRNAは検出限界以下であったが、ノルアドレナリンとPPARリガンドで同時刺激をすると、弱いながらUCP1を発現した。従って、交感神経系の活性化による白色脂肪の褐色化は、前駆脂肪細胞の分化が変化したためではなく、分化した白色脂肪細胞が応答してUCP1を発現したためであると結論した。
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