研究課題
褐色脂肪細胞は、脱共役蛋白質UCP1によって脂肪酸を酸化分解し熱に変換する活性を有しており、エネルギー消費に寄与する。我々はこれまで、寒冷暴露やβアドレナリン受容体刺激、レプチン投与などによって、交感神経系を活性化すると褐色脂肪UCP1が活性化して全身のエネルギー消費が増えること、ならびに白色脂肪組織中の脂肪細胞が褐色化し、これらの総合的結果によって体脂肪が減少することを明らかにしてきた。しかし、これらは全てマウスを用いた実験的研究成果であり、ヒトでの褐色脂肪細胞、UCP1に関しては不明のままである。我々は、フッ素の放射性同位元素(18^F)でラベルした非代謝性グルコースfluoro-2-deoxyglucose(FDG)の組織取込みをpositron emission tomography(PET)で可視化する方法(FDG-PET)を用いて、ヒト脂肪組織へのFDG集積を調べ、以下の新知見を得た。57名の健常成人被験者を対象に延べ80回の検査を行ったところ、室温を低くして2時間程度すると(寒冷刺激)肩部や胸部傍脊柱の脂肪組織に強いFDG集積が認められた。このFDG集積は、1)温暖条件では全く認められず寒冷刺激を受けると出現する、2)同一被験者であっても夏季より冬季のほうが強い、3)別の剖検例でUCP1陽性の褐色脂肪細胞が肩部に豊富に存在すること、などが明らかとなった。これらの結果はマウスなどでの知見とよく一致しており、FDGが集積する部位が褐色脂肪であることを示している。更に、4)この褐色脂肪は20〜30歳代では男女共に半数以上で検出されるが、40歳以上の壮老年者では寒冷刺激をしても検出されるのはごく僅かである、5)20〜30歳代については褐色脂肪が検出されるグループは非検出グループと較べてBMIや体脂肪が低いことも判明した。これらの成績から、従来の常識と異なりヒト成人にも褐色脂肪がかなりの割合で存在し、寒冷適応やエネルギー消費に一定の役割を果たしている可能性が高いと結論した。
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