レニンアンジオテンシン系の脂肪細胞分化と肥満発症における生理的・病態生理的意義を明らかにするために、1型アンジオテンシン受容体欠損マウス(AT1a-KO)を用いて、レプチン抵抗性として知られる高脂肪食負荷における摂食量と体重の変化を検討した。6週齢雄性AT1a-KOマウスと野生型C57BL/6マウスに8週間の通常食(脂質12%、3.57kcal/g)あるいは高脂肪食負荷(脂質60%、5.56kcal/g)により肥満の誘導を試みた。マウスの摂食量と体重の経時変化を検討し、高脂肪食負荷前と負荷8週間後に副睾丸周囲、腹壁皮下および腸間膜脂肪組織の重量を測定した。画像解析装置を用いて副睾丸周囲脂肪組織の脂肪細胞面積と細胞径を定量化した。標準食では、AT1a KOマウスの摂食量は、対照マウスと比較して有意な増加が認められた。しかしながら、高脂肪食負荷時には両者の間に摂食量に明らかな差は認められなかった。又、標準食の場合には、AT1a-KOマウスでは対照マウスと比較して、体重や脂肪組織重量に明らかな差を認めなかった。一方、高脂肪食負荷では標準食の場合と比較して、対照マウスの体重と脂肪組織重量の著しい増加が認められたが、AT1a-KOマウスではそれぞれ約40%と約80%に抑制されていた。脂肪細胞面積と細胞径に関しては、標準食ではAT1a-KOマウスと対照マウスの間に明らかな差を認めなかった。一方、高脂肪食負荷時では、対照マウスにおいて著しい脂肪細胞肥大が認められたが、AT1a-KOマウスでは明らかに抑制されていた。以上より、AT1a-KOマウスでは高脂肪食誘導性肥満症の発症が抑制されることが明らかになり、肥満症におけるAT1aの病態生理的意義が示唆された。
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