本研究では、多くの組織形成に重要な役割を果す分泌因子、繊維芽細胞増殖因子FGFに着目し、脂肪組織形成の分子メカニズムを明らかにした。 まず、FGF10が前駆白色脂肪細胞の増殖に重要な役割を果すこと、さらにFGF10は転写因子C/EBPαと協調的に働き、前駆脂肪細胞の成熟脂肪細胞への分化を亢進することを明らかにした。この前駆脂肪細胞の分化のメカニズムは、これまで培養細胞で提唱されていた分化のメカニズムとは異なっていた。また、FGF10の前駆脂肪細胞の増殖、分化制御作用におけるRbファミリーの役割に付いても明らかにした。 さらに、白色脂肪組織の形成において、成熟脂肪細胞の肥大化過程も重要である。そこで、成熟脂肪細胞の肥大化に関係するFGFシグナリングについて検討を行った。その結果、FGF受容体2が関与することが期待されたため、脂肪細胞特異的FGF受容体2遺伝子欠損マウスを作製し、解析を行った。その結果、FGF9-FGF受容体2のシグナルが、腸間膜白色脂肪組織において、成熟脂肪細胞の肥大化に重要であることを明らかにした。 最後に、薬理作用として抗肥満、糖代謝改善作用が報告されたFGF21について、その生理的意義の検討を試みた。F21遺伝子欠損マウスを作製し通常食下で飼育したところ、白色脂肪組織の増加傾向が観察された。さらに血漿遊離脂肪酸濃度が低下することも明らかにした。従ってFGF21は脂肪組織形成、脂質代謝に重要な役割を担うことが期待された。 以上我々が明らかにした脂肪組織形成の分子メカニズムは、基礎生物学のみならず、肥満症の成因解明や治療法への応用も期待できる。
|