本年度、アディポネクチンの新たな生体防御機能としてC-reactive protein(CRP)抑制作用と血管新生作用を明らかにした。CRPは炎症反応の指標として用いられてきたが、最近冠動脈疾患の危険因子として注目されており、全身に慢性炎症が持続することが肥満症、糖尿病、動脈硬化発症に重要であることがCRPを用いた大規模臨床試験から裏付けられている。まず、我々は冠動脈疾患において血中アディポネクチン濃度の低下が肥満、糖尿病、高脂血症、高血圧と独立した危険因子であることを明らかにした。次いで、血中アディポネクチン濃度とCRP濃度が有意な逆相関を示すこと、その機序として脂肪細胞もCRPを産成しておりヒト脂肪組織中のアディポネクチンとCRPの発現量が逆相関すること、アディポネクチン欠損マウスにおいて脂肪組織中のCRPが増加していることを明らかにした。従ってアディポネクチンはCRPと拮抗し、炎症抑制作用を介して糖尿病、動脈硬化を防御すると考えられる。 さらに、我々はアディポネクチンがヒト血管内皮細胞に対しAMPキナーゼ-Aktキナーゼ-eNOS経路を介して血管新生作用を有することを明らかにした。近年、動脈硬化による虚血に対し種々の血管新生療法が試みられているが、現在マウスモデルを用いてアディポネクチンによる血管新生作用を研究中である。 また、血管におけるアディポネクチン受容体のクローニングに関しても、血管内皮細胞でAMP-Akt-eNOS経路をレポーターにして進行中である。その他、アクアポリンアディポース欠損マウスは作成に成功して機能解析中であり、新規脂肪細胞発現遺伝子は、各々を大腸菌に発現させて得たリコンビナント体より抗体を作成中である。 これらの成果は、将来的に脂肪細胞発現遺伝子と機能異常による病態発症解明につながり臨床的にも応用し得ると考えられる。
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