メタボリックシンドロームは動脈硬化性心血管病の基盤病態である。我々は内臓脂肪過剰蓄積がその本態であることを報告し、ヒト脂肪組織cDNAライブラリーよりアディポネクチンとアクアポリンアディポースを発見した。 アディポネクチン血中濃度は、インスリン感受性や内皮機能と正相関し、内臓脂肪量と逆相関した。低アディポネクチン血症は2型糖尿病・高血圧・冠動脈疾患の独立危険因子であり、遺伝性低アディポネクチン血症は高頻度にメタボリックシンドロームを呈した。アディポネクチン欠損マウスは、食事負荷により糖尿病や高血圧を、血圧負荷で心肥大を、虚血再灌流負荷で広範囲な心筋梗塞を、糸球体過剰濾過負荷で尿アルブミンと腎臓線維化の増悪を発症した。これらはアディポネクチン補充で正常化し、アディポネクチン作用不全が、肥満による糖尿病・高血圧・腎臓病・心血管疾患に関与することが示唆された。アディポネクチンは血管内皮細胞と心筋細胞の細胞死を抑制し、マクロファージの泡沫化とマトリックス分解活性を抑制した。これらの成果から、アディポネクチンは栄養やストレスの過剰から全身の血管系を保護することが示唆された。次にアクアポリンアディポース欠損の検討を行い、絶食によって血中グリセロールが増加せず低血糖を来たすこと、脂肪組織増加と脂肪細胞サイズの増大を示すこと、脂肪細胞でのグリセロールキナーゼ活性上昇とを明らかにした。これらの成果から、アクアポリンアディポース欠損により絶食時低血糖と脂肪細胞中性脂肪合成の増加が生じ、最終的に肥満の表現型を呈することが示唆された。 アディポネクチン血中濃度測定は臨床的に糖尿病・動脈硬化性疾患のリスク評価に有用であり、アディポネクチンやアクアポリンアディポースなどの脂肪細胞発現遺伝子は生活習慣病としての代謝異常や心血管疾患を予防するための標的分子となり得ると考えられる。
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