本研究は脂肪細胞の遺伝子発現変化などの解析を通じて、脂肪細胞の生理機構を明らかとするとともに、肥満や肥満に関連する疾患の分子機構の解明や新規な治療標的の同定を目指したものである。まず、DNAマイクロアレイ解析によって、脂肪細胞の分化過程でMKP-1の発現が増強することを見出し、MKP-1がPPARγの活性調節を通じて脂肪細胞分化を制御することを明らかとした。転写制御因子であるKLF15も脂肪細胞分化過程で発現が増強する遺伝子である。その機能の解析を行い、KLF15が脂肪細胞分化に必須の役割を果たすとともに、肝臓では糖新生系酵素遺伝子の発現制御に関わることを明らかとした。PDK1欠損マウスの胎児線維芽細胞よりPDK1を欠損した褐色脂肪細胞株の作成に成功し、脂肪細胞のグルコース取り込みにおけるPDK1の役割を明らかとした。また肝臓特異的PKCλ欠損マウスの解析などを通じ、PKCλが脂肪酸の産生やインスリン感受性の決定に重要な機能を示すことも見出した。また、肝臓特異的なSTAT3欠損マウスの解析などを通じて、STAT3が糖新生を制御するとともに体重の制御にも関わることを見出した。さらに肝臓STAT3シグナルの活性化は肥満モデルマウスの高血糖や脂肪肝を改善することを見出し、メタボリックシンドロームの治療標的としてのSTAT3の有用性も明らかとした。また、肝臓のSTAT3は中枢のインスリン受容体によって活性化すること、この経路は肥満インスリン抵抗性動物では強く活性化していることを見出した。
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