研究概要 |
今までの研究では、ラット海馬放線層の介在ニューロンinterneuron,INとそれに付随するグリアのペアを選択して研究してきた。ここのグリア細胞には、アストロサイトastrocyte,ACとオリゴデンドロサイトoligodendrocyte,ODCがほぼ同数あることを特異抗体による免疫染色で明らかにした。そしてこのうちのINとACには直接的な相互作用があること、つまりニューロン間の情報伝播にACが関与することを明らかにしてきた。本年度はPGの中のODCに注目し、ニューロンの情報伝播に対する関与を検討した。その結果は以下のようであった。 (1)ODCの特異抗体であるAnti-CNPaseの染色でODCと確認された細胞は、ACとほぼ同じ約10μの大きさの細胞体を持つ。ODCの分枝は、ACが広範で密であるのに対して、数本の太い突起が細胞体より出て枝分かれしていた。これらの枝には、INの軸索起始部あるいは樹状突起起始部に接するもの、あるいはミエリン形成と思われる突然の断端も見られた。 (2)ODCの主要な機能はミエリン形成により活動電位の伝導を跳躍電導により速くすることである。そこでODCの活動電位の伝導速度に対する効果を海馬白板のODCで検討した。まず、ODCが関わる軸索の絞輪間距離は約40μmであることを明らかにした。そして、ODCが入力刺激にグルタミン酸受容体(NMDAおよびnon-NMDA)を介して反応することを明らかにした。 (3)CA1ニューロの軸索の伝導速度は約1m/sであり、ODCを先行して脱分極すると電導速度が約10%速くなることを明らかにした。 以上の結果から、ACの脱分極がINのシナプス伝達に抑制的であるのに対して、ODCは活動電位の電導速度に促進的な修飾作用を持っていることが明らかになり、両グリア細胞が脳の情報処理に深く関与していると結論した。
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