タンパク質の分子認識機構を立体構造の見地から解明することにより、生体内の多様なシステムである細胞認識や免疫機構、シグナル伝達などの重要な知見を得ることができる。タンパク質の結合界面を決定するNMR手法として、化学シフト摂動法やH-D交換法などが用いられるが、当研究室ではこれらの手法よりも正確な結合界面決定法として、交差飽和法(CS法)の開発を行っている。CS法は目的分子(アクセプター)に結合している標的分子を交差飽和源(ドナー)とし、空間的に近接するアクセプター上の結合部位へと磁化飽和の移動を行う手法である。CS法により、アクセプター上の結合界面を明らかとすることが可能であるが、ドナー全体を交差飽和源とするため、ドナー上のアクセプター結合部位に関する情報は得られない。そこで、より詳細な相互作用様式を明らかとするために、両分子間の結合残基対の決定を可能とする測定法の開発を行った。すなわち、ドナーに対して特定のアミノ酸以外を2Hとするアミノ酸選択的1Hラベルを行い、交差飽和源を1種類のアミノ酸に限定したアミノ酸選択的CS法を考案した。本手法を検証する相互作用系として、76アミノ酸残基であるyeast ubiquitin(Ub)と、その加水分解酵素であり、234アミノ酸残基であるyeast ubiquitin hydrolase C90S変異体(YUH1)を選択し、検証したところ、ドナー上においてアクセプターへ近接するアミノ酸残基に関する情報が得られ、近接残基対の同定が可能であることが示された。
|