研究概要 |
高純度の膜蛋白質を迅速かつ簡便に合成する方法の開発を目指して、下記の項目を重点的に研究した。 1.ライゲーション法に関する研究:N-4,5-ジメトキシ-2-メルカプトベンジル基が結合したペプチド結合をチオエステル結合へと変換する至適条件の検討を行った。その結果,ペプチドの伸長反応が完了し,保護基を除去したペプチドを樹脂上に結合したままで1M HCIを含む50%アセトニトリル水溶液で室温7時間ペプチドを処理し、さらにメルカプトエタンスルフォン酸で処理すると,効率よく合成ブロック用のペプチドチオエステルを調製できることが判明した。このプロセスにおいて,リン酸化アミノ酸やトリプトファン残基の分解は見られなかった。また,C末端にCys-Pro-ORを有するペフチドを合成ブロックとして用いる際の反応条件について検討し,チオエステルへの効率的変換条件を見出した。 2.膜蛋白質の合成法に関する研究:各蛋白質を合成する上での問題点の一つは,合成ブロックや生成物の単離・精製である。通常のペプチドの精製で多用されるHPLCは,膜蛋白質関連ペプチドの合成では分離能や非特異的吸着などのため有効でないことがしばしばある。そこで,各種官能基間の選択的反応を利用した新規アフィニティークロマトグラフィーの開発を検討した。低分子量化合物同士の反応性と選択性の試験を終了し,合成ヒトF1Fo-ATPaseサブユニットcなどを標品とし,現在樹脂上での反応条件の探索を行っている。 3.膜蛋白質の合成と挙動解析:EGF受容体ならびにNeuのシグナル伝達機構の解明を目的として,これら合成標品を脂質二分子膜に埋め,膜貫通部位間の相互作用や各種環境下での細胞質側膜近傍部位の挙動の解析を行った。その結果,膜表面の電荷密度の変化に膜近傍部位は大きく影響されること,Ca^<2+>カルモジュリンが膜近傍部位に結合するとの証拠を得た。
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