研究概要 |
ミトコンドリアを構成するタンパク質の大部分は細胞質のリボソームで合成された後に、ミトコンドリアへと輸送される。ミトコンドリアタンパク質の多くはN末端に余分な配列(プレ配列)が付加された前駆体として合成される。本年度は、プレ配列受容体であるTom20サブユニットの構造生物学的な解析を進めた。 プレ配列ペプチドのC末端にグリシン残基からなるリンカーを介してシステイン残基を付加して、ラットTom20に存在する唯一のシステイン残基(偶然に良い位置にある)とSS結合を形成させ、複合体を安定に単離することができる。このシステムをつかって、新しいペプチドライブラリアプローチを考案し、Tom20結合のコンセンサス配列の詳細とALDHプレ配列が配列空間において局所的に最適化されているという結論を得た。次に、Tom20タンパク質のコア構造(NMR実験で得られた構造に基づいて残基番号59-126とした)をGST融合タンパク質として発現し、アフィニティ精製と逆相カラムで調製した。これに化学合成によって調製したペプチドを銅イオン存在下、pH8で混合し、SS結合を生成させた。逆相カラムとゲル濾過で精製して結晶化用試料とした。同様にセレノメチオニン体を調製した。結晶化スクリーニングを行い、14〜15% PEG6000,1M NH_4Cl,0.1M HEPES pH7.0,20℃の条件で結晶を得た。SPring8 BL40B2においてクライオ条件(エチレングリコール添加)下でデータ収集を行い、空間群C2、分解能2.8Åの回折データを得た。現在解析中であるが、非対称単位中に6個程度の分子が存在した。予想外の結果として、一部はプレ配列ペプチドを交換した変則的なダイマーを形成していた。Tom20分子の構造はNMRによって決定した溶液構造と似ていること、プレ配列ペプチドはαヘリックスを形成していることがわかった。
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