研究概要 |
ミトコンドリアを構成するタンパク質の大部分は細胞質のリボソームで合成された後に、ミトコンドリアへと輸送される.ミトコンドリア・マトリクスへ輸送されるタンパク質はN末端にプレ配列が付加された前駆体として合成される.今年度はプレ配列受容体であるTom20サブユニットとプレ配列との複合体の結晶構造解析をおこなった. 我々は過去にTom20分子の細胞質ドメインとALDH由来のプレ配列との複合体のNMRによる構造決定をおこなっている.しかし,プレ配列の速い結合・解離の問題と,Tom20タンパク質のアグリゲーションの問題があった.そこで,Tom20の両末端にあるフレキシブル領域を削除した68残基からなるフラグメントを大腸菌で発現し,これにALDHプレ配列を分子間SS結合で固定した複合体を調製した.リンカーのデザインを多少変えることで,2つの異なる結晶を得て構造精密化を終了した.リンカー配列はYAGCとAAGCであり,YリンカーおよびAリンカーと呼ぶことにする.Yリンカー結晶(分解能2.1Å)は非対称単位中に7分子,Aリンカー結晶(分解能1.9Å,PDB 1WT4)は2分子が含まれていた.Y結晶ではすべてのTom20分子がプレ配列ペプチドを交換し,インターツインドダイマーを形成していた.ここから,5つのファンクショナルユニットを切り出した. Tom20タンパク質の68残基フラグメントは4本のαヘリックスからなり,最初の3本のαヘリックスがプレ配列を結合する溝を形作っている.NMR構造(溶液中,分子間SS結合なし)と比較すると,Tom20タンパク質の部分はほぼ同一であった.プレ配列ヘリックスの位置と方向もNMR構造と結晶構造でよく重なった.両方の結晶でTom20に認識される部分のアミノ酸配列部分(R^<14>LSRLL^<19>)はαヘリックス構造をとることがわかった.
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