研究概要 |
ミトコンドリアを構成するタンパク質の大部分は細胞質のリボソームで合成された後に、ミトコンドリアへと輸送される.ミトコンドリア・マトリクスへ輸送されるタンパク質はN末端に余分な配列(プレ配列)が付加された前駆体として合成される.昨年度までにプレ配列受容体であるTom20サブユニットとプレ配列との複合体を分子間SS結合を用いて安定化して結晶構造を決定した.プレ配列のコンセンサス配列φ_1XXφ_4φ_5(φは疎水性残基)をTom20が少なくとも2つの異なる結合様式を使って,動的に認識しているという極めて斬新な分子認識機構を提案した。 これを証明するためにNMR^<15>N緩和時間解析を行った。Tom20のコア構造にプレ配列を分子間SS結合で固定した複合体を調製した.シグナルの重なりを最小限に抑えるために,プレ配列ペプチドのみに^<15>N標識したものと,Tom20にのみ^<15>N標識したものをそれぞれ調製し,R_1, R_2, heteroNOEの測定を298Kで600MHzNMR装置を用いて行った.モデルフリー解析から各残基のR_<ex>を推定した.また,transverse CSA/dipolar cross-correlation rate(η_<xy>)測定からもRexを推定した.2つの方法によるR_<ex>の値は良く一致した.R_<ex>の大きい残基(1s^<-1>以上)をX線結晶構造解析による2つの立体構造にマッピングした。疎水性接触面に存在するTom20の174、Q75及びペプチドのS16、L19、S20のアミド^<15>Nで大きなR_<ex>が観測された.これは分子間SS結合でTom20上に繋ぎ止められているプレ配列は,溶液中において結合状態においてもサブミリ秒の運動を行っていることを意味し,結晶構造解析により推定された動的認識モデルをサポートする.
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