我々は、X線結晶構造解析の手法を使って、生体で重要なタンパク質分子の立体構造を高分解能で決定している。膜輸送系として重要視されているオートトランスポーターの一種、「Heme binding protein ; Hbp」の結晶構造解析に成功した。分子量は112kDaと巨大で、このクラスのオートトランスポータータンパク質で構造が決定されたのは世界初である。 Hbpは、ヒトの腹膜炎の膿から単離された病原性大腸菌が分泌するタンパク質として発見された。Hbpの役割は、宿主のヘモグロビンを分解してヘムを奪い取り、細菌にヘムを供給することである。Hbpの分泌ドメインの結晶構造は、巨大なβヘリックス構造を中核に、トリプシン様の新規セリンプロテアーゼドメイン、分子内シャペロンドメインなどが付属した構造であった。βヘリックス構造はオートトランスポーターに共通して見られる構造であり、またセリンプロテアーゼドメインはSPATEファミリーで良く保存されている。 我々は、今回得られたHbp分泌ドメインの構造が、いろいろなオートトランスポータータンパク質、つまりは病原性細菌の毒素の機能を調べるための基礎情報として、また毒素の活性を阻害する方法の開発などに役立つことを期待している。例えば、HbpのDomain-2ペプチド自体がHbpの活性を阻害するための医用ワクチン開発生産に使えるのではないかと考えている。また、Hbpは便利なペプチド合成手段として使えるかもしれない。HbpのDomain-2の場所に、他のペプチドを代わりに挿入して分泌させることも可能であろう。 今回の成果は、米国雑誌Journal of Biological Chemistry誌に2005年に発表される。
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