研究代表者松村は、川島武宜の法意識論を本データによって再構成するという観点から研究を推進した。契約の法意識については、口頭の諾成契約について、川島は一方で高度に近代的な法意識がそれを支えると述べながら、他方で福翁自伝によりつつ前法的な規範意識が重要であることの示唆を行っていた。本データの分析によれば、口頭の約束、契約はは近代的な法意識の内面化によってではなく、素朴な規範感情が支えていることが示された。また、文書による契約は、どちらかというと近代的な法意識がその拘束力を支えていることが示された。次に、共同体の内部と外部での契約の拘束力の違いを見ると、契約の拘束力は、共同体の外部との関係で強いことが示された。共同体の内部での拘束力は、契約の拘束力といったものではなく、共同体の同調圧力の所産であることがデータから見て取れる。研究分担者尾崎は民事紛争行動調査のデータをもとに、第1に、民事紛争処理過程において法が主題化される(あるいはされない)ということが有する意味を明らかにした。また、民事紛争行動において「なにもしない」という「行動」選択がパーソナリティや紛争賭などいかなる因子と相関しているか、探索的分析を行った。
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