研究概要 |
今年度は,全国50の地方裁判所の民事通常事件記録(2004年1月1日から2004年12月31日に終了)の閲覧に基づく訴訟当事者データと訴訟代理人データの自然人全員に対する質問票調査(訪問,留め置き法)を実施した。具体的には,本人訴訟原告,本人訴訟被告,代理人付原告,代理人付被告の4種類の当事者調査票による当事者調査と,原告代理人(弁護士)と被告代理人(弁護士)の2種類の代理人調査票による弁護士調査を実施した。調査実施に際してはプライヴァシーの保護と対象者の同意を重視し,まず,挨拶状によって協力の可否を問い(シール付き拒否葉書同封),拒否葉再による拒否者以外に対して,電話で連絡を取って訪問し,調査の趣旨と調査への協力を要請のうえ,質問票を渡し,後日再訪して回収(謝礼贈呈)するというプロシジャを実施した。弁護士の場合は事務所の秘書によるスクリーニング拒否を避けるため,直接弁護士本人へ郵送する形で,挨拶状(拒否葉書)送付の後,拒否者以外に質問票を送付するプロシジャを採用した。さらに,対照群として一般人に対する調査票を作成し層化ランダム抽出によって質問票を配布して調査した(1000サンプル回収)。 上記で蒐集した各種のデータを分析して,訴訟へのアクセス,弁護士へのアクセス,訴訟追行上の当事者の意思決定,代理人の意思決定,和解か判決かの決断を導く要素,裁判結果に対する評価,裁判所・裁判手続き・裁判官に対する当事者と代理人による評価,代理人に対する依頼者の評価,等々の分析を行うとともに,一般人による民事訴訟への知識や期待と現実利用者の評価とを対比させる研究を実施した。本研究の従来にないユニークな点は,単なる行動の記述的調査や,平板な満足度や手続き評価を超えて,訴訟追行上の意思決定における当事者相互間の相互作用,弁護士と当事者の相互作用を重視した調査を行った点と,一般人の民事裁判に対する知識と期待を対照群として調査して,現実の訴訟利用者との対比を分析した点である。これらにより,合衆国のウィスコンシン調査,英国のPaths to Justice調査にも欠けているデータの蒐集と分析を実施できた。
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