本年度はもっぱら、一般市民の紛争経験や法的ニーズを定量的に把握するため調査票調査を実施するための、リサーチ・デザインの検討に専念した。 具体的には、以下の通りである。まず第1に、国内外の類似の調査において用いられた調査票を詳細に検討し、有意と思われる質問項目の抽出を行った。第2に、本領域研究を構成する神戸大学班および東京大学社会研究所班と合同で、一般市民に自らの紛争経験や法的ニーズについて自由に語ってもらうグループ・ディスカッションを実施するとともに、その結果に基づいて、一般市民の紛争経験や法的ニーズを正確に捕捉するためのリサーチ・デザインを検討した。第3に、調査票調査によって一般市民の紛争経験や様々な紛争処理機関の利用経験がどの程度捕捉されるかを確認するために、同じく本領域研究を構成する神戸大学班および東京大学社会研究所班と合同で、小規模な郵送法による調査票調査を実施した。現在、この郵送法による調査票調査の結果を分析中である。 これらの作業を通じて、過去の具体的な経験を調査票調査によって捕捉することがきわめて困難であることや、その困難を克服するためには、記憶を喚起するための特別な工夫が必要であることが明らかとなった。また、単純なランダム・サンプリングによって調査対象者を抽出したのでは、調査対象者に占める紛争経験者の割合が小さくなり、十分な統計的分析を行うことが不可能になってしまう可能性が高いことも明らかとなった。現在、これらの問題をいかに克服するかを検討中であるが、この作業は、先に述べた郵送法による調査票調査の結果の分析とともに、次年度に引き継いでいく予定である。
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