研究概要 |
本年度は、昨年度までの国内・国際学会における議論を踏まえ、データの分析作業を継続しつつ、平成20年5月の日本法社会学会(神戸大学)全体シンポジウム「民事司法過程の法社会学」で報告(企画委員長としての企画趣旨説明)を行った。そこでの議論を踏まえ、問題経験者の弁護士依頼状況とその課題についての論文「弁護士へのアクセスの現状と課題」を完成させ提出した(平成21年5月刊行予定の、太田勝造ほか編『法社会学の新世代』所収),なお、予定していた国際法社会学会での報告は急病のため中止し、代替として、この論文の英訳作業を進め、ネイティブによる校閲を終えた(公表は平成21年度を予定)。この論文は、問題経験者の広義の情報探索行動のなかで、最も重要な弁護士へのアクセスについて、弁護士依頼率の現状、問題類型ごとの差違などを明らかにしつつ、弁護士依頼を左右する要因として、過去の弁護士利用経験と法律家(弁護士、検察官、裁判官、公証人、法学教授)の知人の有無(紹介してもらえる当てがあるを含む)の二つの変数を軸にして4つのタイプを区別し、これらの4タイプが弁護士依頼や、法律相談機関の利用率にどのような連関があるかを明らかにした。タイプ1とタイプ2の弁護士依頼率が高いのに対して、タイプ4の弁護士依頼率が非常に低く、弁護士へのアクセスには過去の弁護士利用経験と法律家の知人の有無によって大きな偏りがあることが明らかになった。市区町村の法律相談や弁護士会の法律相談利用率も、タイプ1とタイプ2で高く、タイプ3と4で低くなっている。これらは全く新しい知見であり、相談機関や日本司法支援センターにおける実務のあり方にも示唆するところが大きい。
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