当年度においては、確定したデータセットにもとづいて前年度に引き続き弁護士使用行動の調査データの分析をおこなった。研究成果は二度の機会に発表した。ひとつは平成20年5月に開催された日本法社会学会学術大会であり、二つめは平成20年11月に東京で開催された特定領域研究の全体研究会である。日本法社会学会学術大会では「トラブル処理における弁護士への助言探索行動と弁護士評価」と題して報告をおこなった。ここでは、(1)相談機関としての弁護士選択のパターンと要因、および(2)弁護士利用者の弁護士に対する評価とそれをもたらす要因という2つのテーマについてのデータ分析の結果が報告された。前者では、トラブルに直面した市民が弁護士にアクセスする時期を従属変数として、早期のアクセスと遅いアクセスの時間的なパターンが明らかにされるとともに、仮説的な規定要因の著しいランダム性が見いだされた。これらの知見は論文「紛争処理と弁護士へのアクセス」としてまとめられ、刊行された。後者では、弁護士の有用性、弁護士に対する満足度を従属変数として弁護士評価の測定結果が報告された。さらに、評価に影響する諸要因を分析した結果、法的な専門性は必ずしも高い評価に結びついていないことが見いだされた。これらの知見は「市民の弁護士使用行動からみた弁護士評価の構造と特質」と題して特定領域研究ワーキング・ペーパー第5集に掲載されている。特定領域研究全体研究会では「現代日本における家事紛争と弁護士の利用」と題して報告をおこなった。ここでは、最も弁護士使用頻度の高い問題類型である家事紛争に焦点をしぼって、家事紛争における助言探索行動全体の中で弁護士利用の占めている位置を明らかにした。
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