2007年度は、前年度に公表した基本報告書等3点の英語版3点を準備し出版した。また、計画のとおり、各種の分析を進め、法社会学会と国際シンポジウムにおいて分析結果の発表を行った。 法社会学会での報告では、パーソナリティ変数の法意識や法行動への影響をパス解析によって分析を試みた。法体験の有無によって、パーソナリティ変数や法知識・法関心、裁判への態度の間の関係性の強度に違いがあることが観察された。また、本法意識調査のリサーチデザインは調査協力者の負担軽減のため10のバージョンを作成しており、それぞれのバージョンに体系的に尺度項目を配置している。これは全体データとしてみた場合、多くの欠測値を含むデータとしてみることもできる。そこで、欠測値を代替する方法として「項目平均」と「欠測値分析による補完(EM法)」を比較したが、後者の方が各主指標に若干の改善がみられた。契約観項目は予備調査等で十分に検討した上で因子負荷量の大きいものをバージョン共通項目として含めているためか、「項目平均」でも十分に分析に耐えると考えられる。 国際シンポジウムの報告では、「裁判官・弁護士への漠然とした信頼」と「契約と約束のイメージの違い」について属性変数やパーソナリティ変数との関係をみた。経験や知識は必ずしも直接は法律家の「漠然とした」信頼感には影響していない。法にかかわる経験や知識の絶対量は、他の社会経験に比べ極めて小さいことから、たとえそうした知識や経験が相対的に多くとも、「漠然とした」レベルの信頼度に影響は観察されにくいことが示唆された。権威主義的パーソナリティ尺度や「お上意識」項目のいくっかは法律家に対する「漠然とした」信頼感に一定の影響がみられた。裁判官や弁護士の有する「権威性」(職業上の専門性や社会的地位に由来する)ゆえに、「お上意識」の強い人は法律家を信頼する傾向が弱いながらも観察された。
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