研究概要 |
本研究は,磁気浮上状態における基礎的な物理化学的データを蓄積し,それを礎に磁気浮上の特徴を活用した物質合成,材料プロセスを提案することである。本年度はまず,磁気浮上状態における物質の挙動に関する基礎的な物理化学的なデータを蓄積することと,それと並行して均一加熱できる磁気浮上炉の製作を試みた. 磁気浮上状態における物質合成でもっとも重要と考えられる物質の挙動のひとつが,熱対流である.そこで,本研究では水の熱対流が磁気浮上状態またはそれ以上の強い勾配磁場の下で,どのような挙動を示すかを調べた.実験は東北大金研の強磁場センターにあるハイブリッドマグネットを用い,水を入れたセルの中にヒーターと共に液晶シートを入れて熱輸送の様子を可視化して行った.ゼロ磁場においてヒーター上方へと立ち上る熱対流は,磁気浮上相当の勾配磁場(1360T^2m^<-1>)下ではほとんどなくなってしまい、マイクログラビティ状態での熱輸送に近い振る舞いが観察された。しかし、対流が完全には抑制されていないことも確認された。水の質量磁化率が温度変化するために,磁気力,重力,浮力のバランスが崩れ,暖まった水に働く力がゼロにならないからである.さらに磁場を強くして,2880T^2m^<-1>になったとき,より完全に対流のない熱伝導の様子が観察された.また同じ勾配磁場下で温度を40-45℃まで上昇させると,水の磁気対流が発生することが確認された.このように,強い勾配磁場を利用することにより,水の熱対流を制御できることを明らかにすることができた. 他方,均一加熱できる磁気浮上炉の製作も試みた.ハロゲンランプやキセノンランプなどの種々の光源から発せられた光を光ファイバーバンドルでマグネットの上まで導き,コーンプリズム,コーンミラーを用いて浮上している試料を周方向から加熱するシステムを作った.さらに,球状試料の表面観察のために,焦点深度の深い顕微鏡を購入し,観察システムの整備をはかった.次年度に磁気浮上炉実験を試みる予定である.
|