研究概要 |
強磁場中におかれた液体、特に水は、磁場の上昇と共に、その性質を無視できない程度に変化させる。10T下では、水の屈折率は無磁場よりも1%増加した。超伝導マグネット(最大10T)による磁場中において,表面プラズモン共鳴法(SPR)を用いた屈折率センサー(波長840nm)と,及び超伝導マグネット内に置かれた試料セルを透過するHe-Neレーザー光(波長633nm)の光路変位を位置敏感検出器(PSD)を用いて検出する方法の2つ独立した手法を用いて,高精度に屈折率の変化を測定する。純水の屈折率は磁束密度とともに増加し,10Tにおいて,SPRセンサーを用いたときは0.14%の増加,PSDを用いたときは0.09%の増加を観測した。純水の屈折率の温度係数は,観測している波長域においておよそ〜1×10^<-4>℃^<-1>であるので,これらの屈折率の増加は温度の変動の影響よりもかなり大きく,磁場による効果を表していると考えられる。表面プラズモン共鳴測定において表面束縛水の磁場効果を検討した。金薄膜表面を修飾することにより、金表面と水との近距離的な相互作用を阻害し、水の屈折率の磁場変化を測定した。金表面の修飾は、金の電極電位を規制しない単分子修飾法による手法と、プラズモン共鳴測定金膜を電気化学的に電位規制して表面酸化物を発生される2手法を用いた。金表面をドデカンチオールなどの長鎖アルカンチオールで修飾すると、水分子との接触面は、清浄金面からメチル表面へと変化する。このとき、測定される水の屈折率の磁場上昇は、界面を用いないレーザー変位測定と一致した。さらに、電気化学的に金表面を酸化し、緻密な酸化金相へ表面を変化させたところ、アルカンチオール修飾と同様に、表面効果は消え、バルク水の磁場効果と一致する結果を得た。この事は、清浄金表面と金距離的に相互作用する表面吸着水の顕著な磁場効果を確認した結果と言える。表面吸着分子の大きな磁場効果は、分子と金属との近距離的な部分電荷移動が、その起源となっているように思えた。この事は、ナーマン等による、SQUIDを用いた表面磁性の実験および解釈と調和的である。
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