研究概要 |
本研究の目的は、人工血管の移植後の遠隔期に起こる閉塞の原因となる内膜肥厚を阻止し、長期にわたり開存しうる人工血管を作成するための最適条件を見出すことである。そこで、前年度の研究において独自に開発した組織工学的方法を用いて市販のePTFEグラフトにウシ大動脈由来平滑筋細胞および内皮細胞を直接重層播種共培養することにより、移植された人工血管に形成される疑内膜と同様の壁構造を持ったハイブリッド人工血管を作成し、これを静置培養および循環灌流システムに組み込み、細胞層(ほとんどが平滑筋細胞から成っている)の組織構造および厚みに及ぼす静水圧、流速(壁ずり応力)および管壁における水透過速度の影響について検討を行った。まず、最初に、内膜肥厚や動脈硬化が血圧の高い人に起こりやすいことから、血圧の影響について調べるために、ハイブリッド人工血管を作製する際にヘッドタンクシステムを用いて水透過が無い(濃縮現象が起こらない)条件下で0,80,100,120,140mmHgの5つの異なった静水圧(生体血管における血圧に相当する)を負荷して7日間培養した。その結果、圧力が高いほど細胞層が厚くなるが、140mmHg以上高くなると逆に薄くなるという事が判った。また、この実験から、細胞層が厚いほどコラーゲンも多く産生されていることが判った。次に、流速(壁ずり応力)および管壁における水透過の影響に関して検討するために、ハイブリッド人工血管の内腔面を一層になって覆っているところの内皮細胞に負荷されるせん断応力の値が2,14,30dynes/cm^2となるような3つの流れの条件下で生理的な範囲の水透過がある場合および無い場合について、28日間培養を行った。その結果、我々が提唱している理論的仮説より予測された通りに、流れが遅いほど、そして水透過がある場合の方が、細胞層が有意に厚くなることが判った。
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