研究概要 |
自家静脈や人工血管を用いて閉塞した血管の血行再建を行う場合には,血栓形成や内膜肥厚により再閉塞が起こるという問題がある.この問題は,特に小口径の血管において深刻であり,そのため,臨床的には内径6mm以下の人工血管は使用されていないのが現状である.本研究ではこの問題を解決するために,まず,内径3mmの水透過性人工血管に血管平滑筋細胞および内皮細胞を懸濁液として直接圧注播種・共培養することにより抗血栓性の小口径ハイブリッドグラフトを作製する技術を開発・完成した.続いて,これを用いて体外循環培養実験を行い,細胞層の組織構造および厚さに及ぼす物理的・流体力学的諸因子の影響について検討することにより内膜肥厚の発症機序を解明することを目指した.その結果,血管壁の水透過性に起因する一種のろ過作用により,内皮細胞表面におけるLDLの濃度(壁面濃度)が流速の増減により変化し,流速が小さいほど高く,そして細胞層に取り込まれるLDLの量も多く,細胞層が厚くなることが判った,局所的に渦が存在する場合には,流れが遅い(壁せんだん応力の値が0 dyne/cm^2)淀み点および渦の最先端にあたる再付着点で厚くなることが判った.また,細胞層へのヒト単核細胞(THP-1細胞)およびLDLのモデルとして用いたポリスチレン微粒子の付着および浸潤も,流れが遅い淀み点および再付着点で最も多く,流れが速い渦の中心部近傍で最も少ないことが判った.これらの結果より,流れが遅い領域でLDLや単核細胞が内皮細胞と長時間接触することにより内皮細胞へのこれらの物質の取り込みが促進され,平滑筋細胞の増殖および細胞外結合組織の産生が起こるために内膜肥厚が局所的に発症することが示唆された.本研究で開発したハイブリッド人工血管は,今後,生体血管の代用として,大いに活用が期待される.
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