研究概要 |
哺乳類の内耳には,微小な振動を増幅し聴覚の感度を高める機構が存在し,それは,内耳外有毛細胞に存在するタンパク質モータPrestinが,構造変化により大きさを変化させるためと考えられている.しかし,Prestinの形状や,それがどのように構造変化をするかは不明である.そこで,本研究ではPrestinの形状を明らかにするため,原子間力顕微鏡(Atomic force microscope : AFM)を用いてPrestinの観察を行った.一般にAFMを用いた細胞膜の観察では,観察された画像からその分子を同定することが困難である.そこで,以下のような実験を行った.はじめにPrestinを安定に発現するCHO細胞株を作製した.そして,Prestinが発現したCHO細胞の細胞膜と,遺伝子導入をしていないCHO細胞の細胞膜をAFMにより観察した.それぞれの細胞の観察画像を比較し,その差の検討した.その結果,どちらの細胞を用いても膜タンパク質であると考えられる粒状の構造物が観察された.そこで,観察された粒状の構造物の粒径分布を調べ,遺伝子導入の有無による粒径分布の差を統計的に比較した結果,2種類の細胞における粒径分布に有意差が確認された.さらにその有意差を検討することにより,Prestinの粒径を推定することができた.今後,実験精度を高め,Prestinの細かい構造と,その構造変化を明らかにしたいと考えている.
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