研究概要 |
本研究計画では,内耳蝸牛内に存在する感覚細胞の一種である,外有毛細胞の伸縮運動に注目し,その源と考えられているタンパク質モータプレスチンの構造変化の可視化を目的とした.そのために,まず,原子間力顕微鏡(AFM)によるナノスケールでの観察に適した安定な試料の作製手法について検討を行った.動物から摘出した外有毛細胞(OHC)はその特性上,基板への接着力が極めて弱く,計測時に容易に動いてしまうため,今回のようなナノスケールでの観察には適さない.そこで,本研究室で作製したプレスチンを安定発現させたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を使用することとした.次に,より安定な観察試料を作製するため,細胞膜の単離を試みた.その結果,低浸透圧溶液中に細胞を超音波に照射することにより細胞膜を単離する手法(超音波破砕法)が最も簡便かつ単離の歩留まりがよいことが分かった.その表面をAFMにより観察したところ,安定に膜タンパク質を観察することに成功し,プレスチンの直径が8-12nmであることを解明した(現在その結果をまとめ国際誌に投稿中である).次に,プレスチンに構造変化を誘導する方法について検討を行った.その結果,超音波破砕法による細胞膜単離技術にパッチクランプシステムを応用し,単離細胞膜近傍において電圧を印加しながらグルタールアルデヒトにより化学固定する試料作製手法を確立した.現在,この手法により得られた試料をもとに,AFMによるプレスチンの構造変化の可視化を試みているところである.
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