研究概要 |
本研究では,内耳蝸牛内に存在する外有毛細胞の伸縮運動に注目し,その源と考えられているタンパク質モータPrestinの構造解明を目的とした.これまでに,原子間力顕微鏡(AFM)による膜タンパク質の観察に適した,安定な試料の作製手法について検討を行い,哺乳類細胞から細胞膜のみを単離する手法(超音波破砕法)および単離細胞膜の膜処理方法を確立した.Prestinを発現させたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞を上記手法で処理し,その表面をAFMで観察したところ,安定に膜タンパク質を観察することに成功し,Prestinの直径が8-12nmであることを解明した(Murakoshi et al.,J.Assoc.Res.Otolaiyngol.,2006;雑誌表紙に掲載).次に,Prestinの構造変化の可視化方法について検討を行った.Prestin発現CHO細胞膜中に存在する他の膜タンパク質の中からPrestin分子のみを特定・観察するため,新たに半導体量子ドット(quantum dot : Qdot)による免疫染色とAFMによる観察を組み合わせた膜タンパク質観察手法(免疫AFM)を考案した.Qdotは蛍光を発する物質であるためAFMに組み込んだ蛍光顕微鏡でその蛍光を観察することでPrestinの存在が確認できる.さらに,Qdotは直径約8nmの硬い半導体材料であるためAFMで容易に観察できる.Prestin分子はその近傍に存在するため,AFMによるPrestin一分子の特定・観察が可能となる.これまでに,AFM観察下においてQdotが安定にPrestinをラベリングし蛍光を発する条件を決定することに成功した.現在,この手法で得られた試料をもとにPrestinの可視化を試みている.今後,さらに試料作製技術の改良,観察精度の向上を行い,Prestinの構造変化のメカニズムを解明を目指し計画していた実験を遂行していく.
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