研究概要 |
本研究では,内耳蝸牛内に存在する外有毛細胞の伸縮運動に注目し,その源と考えられているタンパク質モータprestinの構造解明を目的とした.はじめに, prestinを発現させたチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞の細胞膜及びprestinを発現させていない通常のCHO細胞の細胞膜を原子間力顕微鏡(AFM)で観察した.その結果,どちらの細胞を用いても膜タンパク質であると考えられる粒状の構造物が観察された.この粒子径を,統計学的に解析すると,直径8-12nmの粒子数がprestinを導入したCHO細胞の方が通常のCHO細胞に比べ有意に多かった.この結果から,直径8-12nmの粒子状構造物の多くがprestinであると考えられ, prestinの直径が8-12nmであることが示唆された.しかし上述の手法では, AFM画像からprestin分子を特定できなかった.そこで抗prestin抗体を融合した半導体量子ドット(quantum dot: Qdot)を利用し, prestinを標識しながら詳細な構造を画像化することを試みた. Qdotは直径約8nmの硬い半導体材料であるためAFMで容易に観察できる. Prestin分子はQdotの近傍に存在するため, AFMによるprestin一分子の特定・観察が可能となる. Qdotで標識したprestin発現CHO細胞の細胞膜をAFMで観察した結果, Qdot近傍に4つの凸部分を有した四角形で,中心部に窪みを持つ分子が観察された.このことは, prestinが4量体であり,イオンを通過させるポア部分を中心に有していることを示唆する.
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