研究概要 |
力学的刺激を受けた血管内皮細胞の形態変化の過程を明らかにするため,細胞骨格の1つであるアクチンフィラメントおよび焦点接着班の働きに着目して実験・解析を行った 1.シリコーン膜上への近接場光の形成システムの開発 倒立型光学顕微鏡に落射レーザ光照射システムを取り付け,特殊な対物レンズを用いてシリコーン膜上約100nmの領域に近接場光の存在を確認することができた。しかしながら,細胞底面における接着班の観察においては,厚さ約70μmのシリコーン膜を通しての観察のため明瞭性の点でさらに工夫が必要である。 2.力学的刺激負荷による細胞骨格および焦点接着班の応答解析 ウシ大動脈由来内皮細胞をシリコーン膜上に播種し,GFP-アクチン,RFP-FATのベクターを細胞内に導入して引張負荷実験を行った。ひずみ10%,1Hzでシリコーン膜を繰り返し伸張したところ,細胞自体は膜の伸びと直交する方向に配向し,アクチンフィラメント,FATも同様の配向を示した。これにより,シリコーン膜上で細胞の動的挙動を直接観察することが可能であることが示された。また,シリコーン膜上に不均一なひずみ場を形成したところ,同一細胞内でもひずみの大きい箇所でアクチンフィラメントの発達がみられ,かつ核の位置が低ひずみ側に偏っていることが観察された。 培養内皮細胞に流れによるせん断応力を負荷して,アクチンフィラメントが再配列し,同時に焦点接着班の配置も変化する現象を詳細に観察した。焦点接着班のスライド運動,伸張,出現・消失も明瞭に観察された。これらの結果から,流れの負荷に対して内皮細胞は,(1)デンスペリフェラルバンドの移動あるいは消失,(2)焦点接着班の移動,出現・消失,(3)葉状仮足の形成,(4)焦点接着班の回転と細胞の伸張,(5)ストレスファイバの形成,の過程を経て形態変化を起こしていることが推察された。
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