研究概要 |
生体組織のマイクロ構造の破壊は各種生理的応答に必要なトリガとなる一方,マイクロ損傷の蓄積により組織が破壊し,傷害を引き起こす.マイクロ損傷の発生基準や,損傷の発展とそれによる生体機能,強度の低下メカニズムの解明とその予測は,傷害防止工学的見地から非常に重要である.そこで本研究では,生体組織のマイクロ構造とその損傷を考慮した力学モデルの枠組みを構築し,特に大変形,粘弾性,異方性,能動的収縮能を持つ骨格筋の力学モデル開発に取り組んだ. まず,骨格筋傷害において発生するマイクロ損傷が力学特性に及ぼす影響を明らかにするため,打撲傷とひずみ傷害による組織の損傷と機能変化の相関を明らかにした.次に筋のマイクロ構造要素の一つである筋束の力学特性の活性状態及びひずみ速度依存性を実験的に検討した. 生体組織のマイクロ損傷を考慮した力学モデルの枠組みの検討のため,まず力学的特性が比較的単純な皮質骨の力学モデルを構築した.弾性係数のひずみ速度依存性,変形・強度の異方性,引張・圧縮・せん断の変形・強度特性に関する非対称性,損傷の累積による骨折を表現できるモデルを構築し,実験結果を精度良く記述できることを確認した. 筋のマイクロ構造要素の疲労特性の違いを考慮した力学モデルを構築し,巨視的な筋疲労特性を定性的によく表現できた. 骨格筋組織の特徴を表現する力学モデルを定式化し,家兎前脛骨筋の力学試験結果との比較した.Holzapfelらのモデルに連続体損傷力学を導入し,骨格筋力学特性をモデル化した.骨格筋組織を横等方性の非線形粘弾性材料とみなし,内部損傷も異方的に進展するとした.モデルにより,ひずみ傷害の特徴をよく再現することができることが確かめられた.
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