研究概要 |
本研究では,細胞の力学特性を支配すると予想される細胞骨格(アクチンフィラメント,微小管,中間径フィラメント)や細胞小器官の細胞内での3次元的配置を詳細に調べる一方,これらをそれぞれ選択的に破壊した細胞について,その力学特性を詳細に計測し,細胞の力学特性と細胞内構造物との関連を定量的に明らかにすることを目的として,4年間の予定のプロジェクトを開始した.計画初年度の本年度は,まず,本研究に必須であるin situ染色法を確立した.すなわち,細胞骨格の発達程度は個々の細胞で大きく異なるため,力学特性を計測したその細胞の細胞骨格を観察する必要がある.そこで,引張試験後の細胞を試験機に取り付けたまま染色する必要がある(in situ染色).染色に際しては細胞周囲の液体を順次交換して行う必要があるが,この際,液体を全て取り除くと表面張力の影響で細胞が把持装置から外れてしまう.そこで細胞が把持されているディッシュ底面と対物レンズの間の空間にある数100μlの液体を常に残しながらディッシュ内の液体を入れ替えられるように工夫することでこれを実現した.本法をサイトカラシンDによりアクチンフィラメントを様々な程度に破壊した培養ラット胸大動脈由来平滑筋細胞に適用した.引張試験後,ローダミン・ファロイジンを用いてアクチンフィラメントを染色し蛍光観察したところ,細胞全体の平均蛍光強度は力学パラメータと相関を持たなかったものの,細胞中心部付近の蛍光強度を細胞全体の蛍光強度で除した値が,細胞の弾性率と有意な相関を有することが判った.細胞の硬さにはアクチンフィラメントの量だけでなく,その分布様態が関連している可能性が示された.
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