研究概要 |
本研究では,細胞の力学特性を支配すると予想される細胞骨格(アクチンフィラメントAF,微小管MT,中間径フィラメントIM)や細胞小器官の細胞内での3次元的配置を詳細に調べる一方,これらをそれぞれ選択的に破壊した細胞について,その力学特性を詳細に計測し,細胞の力学特性と細胞内構造物との関連を定量的に明らかにすることを目的として,4年間のプロジェクトを進めている.第3年目の本年度は主に以下3課題を検討した. 1)細胞骨格破壊方法の検討:各種細胞骨格に対する重合阻害薬の濃度や処理時間を変えつつ,個々の細胞骨格についての最適条件の探索を続けたが,IMの破壊状態に関してはまだ安定した条件を確立中である. 2)細胞把持回転観察装置の改良:昨年度に続き細胞把持回転観察装置の改良を進めた.シャーレ内の任意の細胞が把持できるようにして操作性の向上を図った.また本装置を共焦点レーザ顕微鏡に組み込み,共焦点スタック画像から得た細胞の厚み方向を含む断面像と実際に細胞を90°回転させて得た像を比較し,3次元再構成像の質が実際の像に比べ,かなり低いことを確認した. 3)骨格を破壊した細胞の力学特性の計測:張力緩和を用いて主にAF破壊が平滑筋細胞粘弾性特性に対する影響を評価した.まず張力緩和曲線の形状を精査し,張力緩和のプロセスが時定数約60秒と3600秒の2つの緩和曲線の重ね合わせと見做せることを見出した.AFの重合を阻害すると,弾性係数は両方の時定数に関与するものがほぼ等しく半減したのに対し,時定数は長い方のみ優位に減少し,1800秒程度となった.このことは時定数3600秒の応力緩和はAFのリモデリングにより生じることを意味し,平滑筋の応力緩和を早く受動的な応力緩和と遅く能動的な応力緩和の二つに分けて分析する必要があることが判った.
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