研究概要 |
骨は,絶えず自らを成長・吸収させることで,力学的な環境の変化に対して機能的に適応する能力を有しており,このリモデリングの結果として,一見,力学的に見合うような骨の外形状や内部ミクロ構造が観察される.この骨のリモデリングによる機能的適応は,それらを担う骨系細胞の調和の取れた活動によるものであり,これらの活動に力学的な.刺激が影響を与えることが知られている. 本研究では,細胞が一種の力学センサーとして機能し,それらがネットワークシステムを形成することで力学的な環境を感知し,さらにその情報を自らの活動にフィードバックすることで,適応的にリモデリング活動を行うシステムとして捉えた.この過程において,力学刺激のセンサーメカニズムとそれに応じた細胞内部のナノ・ミクロ構造変化の鍵となる「力学」の関与を明らかにするため,実験的検討を行った.特に,骨系細胞をナノ・ミクロな構造(細胞骨格,細胞膜,焦点接着など)から形成される力学的なシステムとしてとらえ,力学的な外乱に対する細胞内分子構造の動的なふるまいが,細胞レベルでの適応的応答過程において,如何に重要な役割を果たしているかを明らかにすることを目指した. 本年度は,細胞内ストレスファイバー構造の再構築を引き起こす力学量について,定量的な評価を試みた.まず,予め単軸方向に伸張させたシリコーン膜上に骨芽細胞様細胞(MC3T3-E1)を培養した.次に,シリコーン膜の引張ひずみを解放することで,細胞に対して圧縮ひずみを与え,それに伴うストレスファイバー構造の変化を観察した.その結果,ストレスファイバー構造の再構築には,細胞全体ではなく,ストレスファイバー自体に与えられるひずみ量が重要であることが示された.また,ストレスファイバー構造の再構築を開始させるひずみ量に閾値が存在し,その値は,およそ20%の圧縮ひずみであることが示された.
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