研究概要 |
骨系細胞の様々な活動は,生化学因子のみならず,力学的因子によっても調整されていると考えられており,細胞の力学刺激感知機構を詳細に解明することが,細胞活動における力学因子の役割を明らかにする上で重要である.力学刺激に対する細胞応答の一つとして,細胞内カルシウムイオンの濃度上昇が知られている.この応答に対して,細胞を構成する細胞骨格や膜などの各構造要素が寄与すると考えられている.そこで,本研究では,力学刺激として,細胞膜や細胞骨格に生じる変形量に着目した.また,骨格タンパク質や膜の粘弾性特性に着目し,カルシウム応答の発生時に細胞に与えられるひずみ,および,その速度との関連について検討した.これらの検討は,主に骨形成を担う骨芽細胞を用いて行ったが,さらに,骨基質内において,メカノセンサーとしての役割が予想される骨細胞についても同様の検討を行うことで,各骨系細胞の力学的刺激応答,およびそれらが形成する細胞間ネットワークにおける力学刺激情報の伝達過程の解明に取り組んだ. 以上の検討から,まず,骨芽細胞内のアクチン骨格構造の動的な安定性において,骨格そのものに予め作用している張力が重要な役割を果たしていることを示した.さらに,定量的な変形を与えることで,細胞内骨格ネットワークに対して,約20%の圧縮ひずみ(初期引張ひずみ解放)が作用することにより,アクチン骨格構造の脱重合が促進されることを明らかにした.また,メカノセンサーとしての役割が示唆されている骨細胞について,単離骨細胞および組織内の生骨細胞に対して直接的な力学刺激を与え,それらのカルシウム応答を確認することができた.さらに,骨細胞内のアクチン骨格構造分布との関連が示唆されたため,今後,より定量的な力学刺激との関連性について検討することとなった.
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