研究概要 |
活性酸素・フリーラジカルがヒトの老化やそれに伴う疾病(心臓病・炎症・ガンなど)に深く関与していることが明らかにされ注目を集めている。活性酸素種による過酸化脂質の生成や、蛋白の変性、DMAの連鎖切断などを防ぐ天然の抗酸化剤として、ビタミンEやビタミンC、ユビキノール、カテキン類、フラボン類が良く知られている。しかしながら、これらの抗酸化剤の生体中での抗酸化反応のメカニズムや、抗酸化剤間の相互作用に関しての詳細は明らかにされていない。そこで昨年度に続いて、本年度も、上記の各種抗酸化剤について、そのビタミンEラジカル(Toc・)還元・再生反応速度(k_R)、およびAroxylラジカル(ArO・)の消去速度(k_S)を、ストップトフロー分光光度計を用いて、均一溶液系とミセル溶液系(pH変化)で測定し、抗酸化活性の速度論的評価を行なった。例えば、ビタミンE同族体(α-,β-,γ-,δ-tocopherol)およびユビキノール-10のAroxylラジカル消去反応速度(k_S)のpH依存性の解析結果から、これ等の抗酸化剤のpK_a値を求め、水溶液中において存在する、還元型構造と各イオン構造に対する反応速度を求めることに成功した。ミセル溶液中におけるpH7でのα-,β-,γ-,δ-tocopherolのk_Sの相対値は生物活性(赤血球溶血テスト、筋ジストロフィー、胎児吸収)の相対値と良い相関を示した。また、求めたk_Sの値と、各組織中におけるα-tocopherolとユビキノール-10(and-9)の濃度の積の値を比較検討し、血清中ではα-tocopherolが、また、心臓、肝臓、腎臓、脳などのミトコンドリア中ではユビキノール類が高いラジカル消去の役割を果たしていることを明らかにした。さらに、ビタミンEとユビキノール-10が共存する場合に、ラジカル消去速度に相乗効果が見られることを見出した。 また、上記の研究テーマと並行して、分子性磁気伝導体の開発に関する研究を行なった。即ち、フェルダジルラジカルカチオン類とNi(dmit)_2などの電子受容体からなる数多くの分子性錯体を合成し、この中から新しく数種の分子性磁気半導体と反強磁性半導体を見出すことに成功した。
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