研究概要 |
開殻有機分子を用いた分子磁性に関する研究のさらなる発展を目的に、従来にない新しい電子スピン構造を有する安定な開殻分子の合成・開発を行ってきた。これまでに高対称性の奇交互炭化水素ラジカルであるフェナレニルに対する窒素原子や酸素原子を導入したジアザフェナレニルやオキソフェナレノキシル類の設計・合成に成功し、高いスピン非局在性、トポロジー的対称性およびヘテロ原子効果によって誘起された興味深い分子構造や電子構造を明らかにした。例えば、三つのt-ブチル基が置換した1,3-ジアザフェナレニルは、純有機物の開殻分子としては非常に限られた例しか報告されていない溶液状態および結晶状態におけるサーモクロミズムを示すことを見出した。また、その要因が、溶液状態においてはσ-ダイマーの形成・解離により発現すること、結晶状態においては、σ-ダイマーとπ-ダイマー間の熱平衡の程度により発現することを実験的に明らかにした。 さらに、水素結合による超分子構造の構築、水素結合を通したスピン分極、および非局在化したスピン系との動的な相互作用の発現を目的に、高い対称性を有する水酸基を導入したオキソフェナレノキシル型中性ラジカルの設計と合成について検討した。これまでにラジカル前駆体である三つのt-ブチル基を導入したジヒドロキシフェナレノン誘導体の位置選択的な合成を完了し、酸化反応を行うことにより目的の中性ラジカルの生成を確認した。
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