研究概要 |
一酸化窒素(NO)は、血管弛緩、神経伝達、感染・炎症反応の制御など、多彩な生物活性を有するラジカル分子である。本研究にて我々は、NOのシグナル活性の一部が、NOによる生体分子、特に、核酸塩基グアニンのニトロ化反応により発揮されていることを見出した。すなわち、NOの二次シグナル分子であるcyclic GMP (cGMP)のグアニン部分(8位)がニトロ化され、全く新規の環状ヌクレオチド(セカンドメッセンジャー)である、8-nitro-cGMP (8-nitroguanosine 3',5'-cyclic monophosphate)が細胞内で生成することを証明した。さらに、8-nitro-cGMPがcGMPのシグナル活性を保持しながら、cGMPにはないNO固有のシグナル機能、例えば、細胞保護因子ヘムオキゲナーゼ(HO)-1の発現誘導能等を有していることを明らかにした。すなわち、8-nitro-cGMPによる細胞内シグナル伝達機構に関して、8-nitro-cGMPが、HO-1発現調節因子であるKeap1のSH基と反応して、新しいタイプの翻訳後修飾を誘発することが分かってきた。具体的には、蛋白質のCys-SH基と8-nitro-cGMPとの求核置換反応による蛋白質8-thioalkoxy-cGMPアダクト生成反応であり、我々は、この蛋白質の翻訳後修飾を"S-guanylation"と名付けた。我々の発見は、生体が8-nitro-cGMPの生成を介して細胞内センサー・レセプター蛋白質を活性化して、酸化ストレス(あるいは、酸素ストレス)に対する適応応答シグナルを発信することにより"アダプトソーム(adaptosome)"ともいうべきストレス適応応答システムを構築していることを示している。この様なNO/8-nitro-cGMPによる酸化ストレス適応応答の分子制御機構の解明を契機に、今後、酸化ストレス・フリーラジカル研究の新たな展開が期待される。
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