研究概要 |
磁性金属薄膜・ワイヤ・クラスターはそれ自身の物性に大変興味がもたれているが、本研究ではこれらの金属表面に原子分子を吸着させるなどしてその磁性体の磁気的性質を劇的に変化・制御することを目的としている。昨年度から今年度にかけて、本研究において磁気ナノ構造の評価を行うにあたって革新的ともいえる発見があった。それは可視紫外光による光電子放出磁気円二色性が仕事関数しきい値付近で極端に増大する現象である。光電子放出による磁気円二色性測定が可能であれば、光電子顕微鏡を利用することにより空間分解能10〜40nm程度で磁気ナノ構造を観測することが可能となる。これまで磁性薄膜の磁気ナノ構造観測には、光源として軟X線放射光を用い光電子顕微鏡を利用した研究が盛んに行われているが、この方法では第3世代放射光源という巨大設備が必要(日本においてはSpring8のみ)で、かつ、時間分解能が放射光パルス幅で決まり現状では欧州ESRFの70ps程度が最高である。しかし、紫外可視光でこの測定が可能になれば、レーザーを用いて実験室での観測が可能となるばかりか時間分解能も一気にフェムト秒領域に突入できる。これまでこの現象が発見されてこなかったのは、紫外可視領域では磁気円二色性が弱いという先入観と、実際適当な波長の光を用いても非常に弱い磁気円二色性が観測されるのみであることが報告されていたためである。今回の本研究で光の波長をちょうど仕事関数しきい値に合わせることでFe,Co,Niいずれの薄膜試料でも光電子磁気円二色性の増大が観測され、バンド計算からも妥当であることが示された。実際、紫外光を用いた磁気円二色性光電子顕微鏡を立上げ、Cs被覆Ni/Cu(001)系で静的な測定を行った結果、見事に磁区構造を観測することに成功した。
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