ラット海馬のスライス標本において、2光子励起でケイジドグルタミン酸を活性化するシステムを利用して、単一スパインへの反復的グルタミン酸の投与により、シナプス可塑性を誘発することを試みた。この結果、無Mg溶液中1Hzで一分間の反復投与により、スパイン頭部の増大が10秒以内に誘発されることがほとんどのスパインで誘発されることが明らかとなった。この増大は刺激したスパインに限局しており、10分程度の短期相と一時間以上続く長期相があり、短期相はすべてのスパインで見られたが長期相は約半分のスパインでのみ見られた。この2つの増大相ともNMDA受容体の阻害剤、カルモジュリンの阻害剤及びアクチン重合阻害剤で完全に阻害されたが、カルモジュリン依存性II型りん酸化酵素の阻害剤は長期相のみを阻害した。自動的マッピングによって樹状突起表面のグルタミン酸感受性を測定したところ、スパイン頭部増大が見られたスパインにおいて特異的にグルタミン酸感受性が上昇していることが明らかとなった。このとき、グルタミン酸感受性はスパイン頭部の一部、シナプス後肥厚部に限局して観察され、頭部増大が続けば二時間以上でも持続したので、この現象はシナプスの長期増強を現していると考えられた。こうして、2光子励起法を利用することにより、単一シナプスレベルで可塑性を誘発することに初めて成功し、それがスパイン頭部増大というアクチン再編成による形態変化を伴うことを明らかにした。
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